炭素14法による年代測定 

 今回は歴史関係でかつ技術的な話です。
 興味が無い人には面白くもなんともなく、さらに専門家な人から見たら間違いだらけかもしれません。
 なんで「歴史にちょっと興味がある人」専門ということで。
 ええ、自己満足なんですけどねorz

 僕らが知っている昔のことは、せいぜい数十年前のことです。子供の頃に見て聞いたコトが、実際に確認できる歴史の限界と言えるでしょう。
 では、それより昔のコトも何とかして知りたい。そんな時はどうすればいいのでしょうか?
 そこで生まれたのが年代測定という技術です。
 年代を測定するには大きく分けて3つの方法があります。

1:伝聞
2:本
3:科学的調査

 1の伝聞は、おじいちゃんが話してくれる昔話とか、代々受け継がれている民謡とか、そういった類のもの。
 2番は昔の新聞に始まり、魏志倭人伝のような数千年前に書かれた歴史書に至るまで、人間によるさまざまな記述があたります。で、この2つについてはまたいつか。
 今回は3の科学的調査法の一つである「炭素14法」について解説してみます。



 年代測定法にはいろんな種類がありますが、遺跡や遺物の調査によく使われるのは「炭素14法」(※1)と呼ばれるやり方です。
 炭素14法では「対象物がいつ死んだか」を測定します。当然、調査できるのは「生命体」のみです。
 炭素14は光合成によって植物に取り込まれ、食物連鎖によって動物に広がっていきます。炭素14の濃度は空気中では一定なのですが、体内に取り込まれるととどんどん減ってしまうという性質があります。そしてその減り方には規則性があるので、体内にどれほどの炭素14が残っているかを調べることで、その生物が最後に炭素14を取り込んだ時期を特定できるのです。

 なお、この方法を実践するには「その生物が死んだときに含まれていた炭素14の量(=初期値)はどれくらいか」が分からないとダメです。さきほど、大気中の炭素14の濃度は一定と書きましたが、実際には時代によって変動していたことが明らかになっています。
 現在では、これらの変動=時代ごとの炭素14濃度を、年代をより高い精度で特定できる年輪法やサンゴのウランth法(※2)などから導き出し、その結果で炭素14法による測定年代を補正しています。
 たとえば、ある大きな樹木が、炭素14法では「5000年前のもの」とされ、年輪法では「4000年前のもの」と診断されたとします。この場合、より正確に年代を特定できる年輪法の時代が採用され、さらに他の資料を調べた時に「5000年前」という結果が出た場合は「4000年前のもの」という測定結果を与えるのです。
「なら最初っから年輪法で調べりゃいいんじゃね?」
と思われるかもしれませんが、年輪法では当然「年輪がキッチリと残っている樹木しかダメ」なワケで、年輪法で補正された炭素14法があれば、化石や貝殻を使って年輪法並みの精度で測定できることになるのです。

 炭素14法は科学的にはかなり信頼できる測定法なのですが、当然限界はあります。
 まず炭素14の半減期が約5730年と短いので、現在の技術では測定限界が3万年弱、がんばっても4万年程度ということ(理論値では約6万年前まで可能)。
 次に、調査できるのは動植物や貝などの「炭素を内部に取り込むもの」に限られ、不純物を含まない土器(※3)や鉄器、建築物などの時代測定はできないということ。
 そして最後に最も深刻な問題として、この測定方法の大前提となる「炭素14の初期値」は正確に観測されているわけではなく、あくまで推量(もちろん精度を高めてはいますが)なので厳密な値を取るのが不可能なこと、さらに資料から炭素14を検出する作業が完全無欠にはできないことなど、さまざまな理由によって、どうしても数十年~数百年の誤差が生じてしまうのです。
 この誤差が多いのか少ないのかは研究対象による部分が大きいでしょう。15000年前が14900年前になっても見逃しOKくさいですが、1000年とか2000年というスパンで歴史を見るならば、100年の誤差は見逃せないと言わざるを得ません。でもって、キッチリ正確に年代を知りたいのは、そういった数千年、数百年単位での歴史だったりするから困りものなのです…。

 ここでは炭素14法を例にとりましたが、すべての年代測定法は、精度をあげるべく様々な改良をほどこされていますが、程度の差こそあれ誤差の問題を解決できていません。つまり現在の技術では、歴史的な時代を絶対確実に決定することは非常に難しいのです。
 なので、新聞なんかで「中国で4000年前の王朝遺跡発見」とかいう記事が出たとしても、「誤差の可能性がある」というコトをちょっぴり気にかけておくのもいいかもしれません。喜んじゃって後から「ゴメン、あれウソ」だとへこみますからね…

 と、ここまで否定的な意見を書いてなんなんですが、これは炭素14法の否定ではありません。「炭素14」でググるとよくあるのが「炭素14法をはじめとする放射性同位体年代測定はアテにならない」という記述を見かけますが、これは往々にして情報を曲解しているケースが多いです。
 例えば炭素14法では「数万年が限界」なのは分かっているのに「200万年前の骨を測定したら結果がヘンだった」とか、カリウムーアルゴン法では「急速に冷却された火山岩の測定は不可能」と分かっているのに「カリウムアルゴン法で火山岩を測定したら1800年の溶岩が1.6億年前のものとされた」などと述べています。
 これらの測定法は、原理とその原理による弱点がハッキリしています。なので、測定者はその弱点をカバーするために「適切なサンプル」を「適切な方法で」測定します。そしてそのような方法を取ったときに、炭素14法がインチキであるという結果はでていません。つか出てたら誰も使いません。
 これらの方法には、あくまで「誤差」が存在するだけで、かつ誤差の存在を否定してはいないのです。
 逆に言うと「適切なサンプルと方法」を得ることができない、もしくは難しいケースでは、測定結果にゆがみが生じてしまうのが年代測定法が持つ弱点といえるでしょう

 さて、なんでこんな話を長々としたかというと、別の機会に「歴史は人間の想像力で作られる」って話をしたいんですが、その前提条件として「科学的年代測定は絶対ではない」っていう説明が必要だったワケで…。
 というわけでこの話は、またの機会へと続きます。



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※1:炭素14とは「質量の数(陽子+中性子の数)が14個の炭素」のこと。炭素は陽子の数は6なので、中性子の数によっていくつかの種類が発生します。中性子の数が6だと炭素12、7だと炭素13、8だと炭素14となるます。で、ノーマルは炭素12。13は12の約1/100、14は12の一兆分の一程度が存在しています。このように「同じ元素でありながら中性子の数が違う」ものを「同位体」と呼びます。さらに同位体の中でも構造が不安定なものを「放射性同位体」と呼びます。
 炭素の例では、12と13は物質として安定しているので、自然に崩壊することはありませんが、14は非常に不安定な物質で時間とともに変質していくので、炭素14は「炭素の放射性同位体」なワケです。
 炭素14の崩壊速度は一定で、仮にある有機物に1万個の炭素14が含まれている場合、約5730年で半分の5000個に(放射性同位体が元の数から半分にまで減ってしまう長さのことを「半減期」といいます)、倍の11460年たつと2500個に、17190年だと1250個に減っていきます。

※2:「放射性同位体」を使った年代測定法の一つ。放射性同位体年代測定法には炭素14法以外に以下のようなものがあります。
ウラン鉛法 100万~45億年前
カリウム・アルゴン法 1万~30億年
ウラン系列法 0~40万年

 これらの理屈も基本的には炭素14法と同様で「資料の中に含まれる同位体の数を測定し、初期値を比較することでそのものの年代を出す」ことになります。これらの方法は炭素14法より、古い時代まで測定できますが、その反面対象となるのが特定の鉱物のみだったりと、応用が効きにくくいのが難点です。炭素14法の「対象が有機物全般である」というのは、ある意味非常に大きなアドバンテージであると言えます。

※3:そんなものがあるのかどうか分かりませんが…。土器の中に虫の死骸や植物の残骸が「炭素14法で必要な量」だけ含まれていれば、土器を炭素14法で測定することは可能です。ただし「土が古い」可能性を否定できないので精度は下がると思います。
 土器そのものを炭素14法で測定できない場合は、土器が出土した地層や遺構から発見された「同時代に死んだ有機物」を調べて、土器そのものの年代を推定します。

<参考リンク>
放射性炭素年代測定 - Wikipedia
進化論と創造論 「放射性炭素による年代測定の原理」「放射性同位体による年代測定の異常値 」
縄文の記憶 放射性炭素(炭素14)で年代を測る
邪馬台国とは何だろうか? 「歴博発表の放射性炭素(14C)年代について」
セントラルリサーチセンター 「年代測定法」
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[ 2005/07/29 21:25 ] 歴史 | TB(0) | CM(2)


中性子数記述の誤りについて

「歴史は人間の想像力で作られる」に同感です。「歴史は歴史学者の見解である」と小生は思っています。
さて、間違いを見つけました。折角の興味深い文章ですから訂正してくださるとありがたいと思います。

炭素14とは「質量数(陽子数+中性子数)が14の炭素」のことです。炭素原子の陽子数は6ですから通常の炭素12は中性子数は6個、炭素13は7個、炭素14は8個です。
>※1:炭素14とは「中性子の数が14個の炭素」のこと。炭素には3つの種類があり、中性子の数が12の炭素12、13個の炭素13、14個の炭素14です。
[ 2005/08/26 15:56 ] [ 編集 ]

ご指摘、ありがとうございます。
さっそく修正させていただきました~。
もとがバリバリの文系なので、化学系はいまひとつ理解が甘くて;;

なお、修正にあたり参考にしたページのリンクを載せておきます。興味を持った方はこちらもどーぞ

TRIAC http://triac.kek.jp/
短寿命核って何だろう
http://triac.kek.jp/tanjumyoukakuttenani/rnbj-nucleus.html
[ 2005/08/26 19:44 ] [ 編集 ]

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